南都銀行本店
~旧六十八銀行奈良支店~

南都銀行本店 ~旧六十八銀行奈良支店~

当行本店の建物は、大正15年4月、奈良郵便電信局跡地に旧六十八銀行の奈良支店として竣工されたものです。旧六十八銀行は国立銀行で南都銀行の前身である4つの銀行のうちの1行です。

設計監理は東京在住の工学博士で建築士の長野宇平治氏、施工は大林組でした。
外壁には岡山産の花崗岩と褐色の煉瓦を使用し、構造は鉄筋コンクリート造の3階建(一部4階建)地下1階の建物で、奈良唯一の壮麗な外観のギリシア様式建築でした。

奈良県内では貴重な洋風近代建築の事例であり、平成9年に国の登録有形文化財となりました。

当時の建物としては、アメリカ製金庫扉、窓口シャッター、消火栓、温水暖房、天井扇など近代的設備が随所に施されており、総工事費は関係費用を含めると当時の金額で52万3,000円という巨費を投じたようです。

支店としてスタートしたものの、いずれは本店とすることを想定していたため、堅牢性においても銀行の本店にふさわしい耐震構造が採られ、関東大震災の教訓を得て設計の見直しをした際にも防火設備を多少追加するだけで大幅な変更は行わなかったようです。新築落成式の席上、長野氏は次のように建築報告しています。

「起工の当時、東京大震災の後を受け、世間は建築物の耐震および防災の構造設備に対し改良の方策に焦慮せる折柄、本建築は偶然にも耐震上有利なる方法を採用しありしことを知りたれば、設計上改作を加うるの必要なく、震災前に成れる設計方針を踏襲することを得たるは意外の幸福なりき。ただ、小局部において多少改良を加え、また防火設備に対し十分考慮を以て装置をなせり。」

開業に先立ち店舗を一般公開しましたが、入場を制限するほどの参観者が詰めかけ、大好評であったようです。

このギリシア様式の古典的な建造物のなかで、とりわけ目を引くのが正面のイオニア式円柱に施された「羊」の彫刻ですが、これは設計者の長野氏と懇意だった東京美術学校教授の水谷鉄也氏の作品です。「羊」の由来には諸説あるようですが、古代ヨーロッパにおいて民に多くの富をもたらした家畜を金融機関のシンボルとして採用したのではないかという説が有力です。なお、この「羊」の彫刻は建物東側壁面の装飾にも用いられています。

昭和3年8月、旧六十八銀行は奈良支店を新本店とし、その後同9年6月、他3行との合併により「南都銀行」が誕生しましたが、以降「南都銀行 本店」として現在もその機能を果たしています。

その後、第二次世界大戦後の同28年に北側部分に増築、さらに窓枠や内部の改装を幾度か行いましたが、営業室をはじめ所々に往時のたたずまいを残しており、三条通り側からの外観は竣工時とほとんど変わらない姿を保っています。